江田島殺人事件(内田 康夫)

学生時代に読み漁っていた内田康夫の浅見光彦シリーズ。1988年に出版された作品だが、妻の故郷である江田島が舞台ということで、現地の地図などと照らし合わせながら読んだ。

江田島と言えば、かつて海軍のエリートを養成した海軍兵学校──現在は海上自衛隊の幹部候補が学ぶ場所である。観光地としても有名だが、その場所で事件が起こり、浅見光彦が現地を訪れるという、一見するといつもの旅情ミステリーのようである。

しかし、趣が異なるのは、主人公や登場人物が、戦争や軍、あるいは自衛隊への考えを語る部分で、この本が出版された当時の社会情勢を反映しているようにも感じる。ノンポリという言葉も出てくるが、政治に興味がないと言いつつ、最近の選挙にもいかない人たちののような無関心ではない。むしろ社会への問題意識は高く、何らかの形で社会を少しでも良くしたいという志を持っている。

この作品は、単にミステリーとしてさらりと楽しむこともできるが、江田島の旧海軍兵学校を訪れたうえで、物語と重ねて読むと、登場人物たちの思いをより想像できるのかもしれない。

個人的おすすめ度 3.5