歩兵の本領(浅田 次郎)

私が子供だった1970年代頃には、まだ上野駅で自衛隊員を募集する人を見かけた気がする。そんな時代に自衛官になった人々を描いた連作短編。国を守る存在でありながら、外を制服で歩くこともできず、名誉や誇りを持つことも難しい時代だったのかもしれないが、その中で居場所を見つけ、人としてどうあるべきかを身をもって覚え、そしてそれを引き継いでいこうとする彼らの姿に自然と涙がこぼれた。

エリートを育てるのではなく、落ちこぼれを作らない組織を目指すというあり方は、互いに命を預けあう仲間だからこその関係なのだろう。そこにいた者にしかわからない苦労はたくさんあるだろうが、この本を読むと彼らを羨ましいなと感じるシーンがたくさんある。

浅田次郎氏もまた自衛隊にいたことがあるというのを知ってさらに驚いたが、なるほど、だからこそこの臨場感があるのかと納得。涙あり、笑いもあり、さすがの浅田次郎作品であった。

個人的おすすめ度 4.5