検事の死命(柚月 裕子)

検事・佐方シリーズほど安心して読める法定ミステリーはない。平成版水戸黄門というか、正義の味方ウルトラマンというか、とにかく表現は古いけれど、それくらい安定的に面白い。

シリーズ全作を通じて、とにかくテーマは人である。この人はなぜ今ここにいるのか、なぜこんなことをするのか、そこにはすべて理由がある。佐方の視点によって、隠されていた、あるいは当事者ですら気づいていなかった人の心が見えてくる。

本作では、佐方の父の真実が明らかになる。その父があったからこそ、佐方貞人という人は愚直に正しい道を歩もうとするのだろう。それは茨の道であり、敵は外ではなく身近なところにいる。本来、法の番人でなくてはならない人たちが、佐方の前に立ちはだかるのだが、彼らもまた葛藤しているのかもしれない。

佐方のような人ばかりであれば、世の中もっと良くなるのになと想像してみた。そのことはすなわち、自分自身が少しでも真っ当な生き方をすれば、世の中を良くできるかもしれないということである。

ちなみに、まったく個人的なことだが、物語の冒頭で小早川岳毅彦の伝説の三打席連続ホームランが出てきたことが非常に嬉しかった。

個人的おすすめ度 4.0