検事の本懐(柚月 裕子)

検事・佐方シリーズは本当に心に響く。連作短編のそれぞれに正義の物語があり、人が最後に人として踏みとどまる瞬間を感じて涙が零れた。佐方が対するのは、被疑者Aではなく、名前のある一人の人間である。森を見るのではなく樹を見るという姿勢は、本来、全ての人にとって大切な観点に違いない。

この本には五編の作品が収録され、第三話の「恩を返す」では学生時代の佐方が描かれ、また、第五話の「本懐を知る」では佐方の父について描かれている。淡々と仕事をする佐方の人間的なバックグラウンドが見えてきて、佐方という人並びに本シリーズへの思い入れが益々深まった。

第一話の「樹を見る」の佐方の言葉は胸に刺さった。第二話の「罪を押す」は一番泣いた。泣かずにはいられなかった。そして、第四話の「拳を握る」では、読んでいて本当に強く拳を握りしめた。何話が一番面白かった方と聞かれても、すべて面白かったとしか言いようがない。

続編も手元にあるので早速読み始めよう。

個人的おすすめ度 4.5