暗鬼夜行(月村 了衛)

学校代表に選ばれた読書感想文は盗作だというSNSの投稿が事件の発端となる。感想文の指導にあたった教師・汐野は、この問題を解決すべく、積極的とは言えないまでも結果として多くの時間を割くことになる。しかし、この事件は中学校内だけでなく、地域住民の対立にまで発展し、汐野自身の人生にも大きな分岐点となっていく。

作品内では、中島敦の「山月記」、あるいは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」といった文学作品が、物語を暗示するかのように用いられている。また、問題の感想文は芥川龍之介の「羅生門」について書かれたもので、それが示唆する心の闇の部分は、登場人物たちのあり様にも重なり、全体を通して文学が大きな背骨を作っているように感じた。読了すると、本作の「暗鬼夜行」というタイトルが本当に絶妙であることが理解できる。

笑顔を振りまいている人が、わずかな瞬間に見せる別の顔──それに気づいてしまった瞬間の恐ろしさ。できれば知りたくない現実だが、そこに踏み込むことこそ、文学の醍醐味なのかもしれない。この本を読んでいる自分はどんな顔をしているのだろう。

個人的おすすめ度 4.0