掏摸(中村 文則)

スリを生業とする主人公は、木崎という危険な男から、拒否することのできない仕事を受ける。
その仕事に失敗すれば待っているのは自身の死。
もし拒否すれば女と子供の死。
孤独に生きながら、人間としての尊厳を失うことなく、自らの人生を選択しようとする主人公の静かなる叫びに共感してしまった。
この作品は、犯罪の良し悪しを論じるものではなく、また、社会の底辺を描こうとしたものでもないだろう。
私(読者)自身に「お前は本当に自分の人生を歩んでいるのか?」という根本的な問題を投げかけているのだと感じた。

個人的おすすめ度 4.0