戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)

第二次世界大戦時、ソ連は女性を男性と同じように前線へ送った。この大戦の犠牲者数だけを見ても、ソ連は世界で突出している。多くの命が失われ、戻ってきた人たちも体と心に大きな傷を負っていた。戦線で活躍した男性は、帰還してから称えられる一方、女性たちの多くは口を閉ざし、辛い現実に直面した。勝利は男性のためものだったのだろうか。

著者は、この戦争で戦った女性たちの声をひとつひとつ拾い上げ、彼女たちはそのとき何を考えて行動し、何を失い、何を得たのか、その現実を脚色することなく伝えようとした。映画などで見る戦争は、正視に耐えるきれいな部分だけを描いているというのは、確かにその通りだろう。彼女たちが語る現実は、他人であっても見たくない現実が多分に含まれていた。

憎しみと絶望、そして僅かな希望。軽々しく失われていく命。それらが非日常ではなく日常となる日々。きっとここに語られていることは氷山の一角に違いない。

そうした死に溢れる日常から帰還した彼女たちを、人々は称えるどころか、歓迎もしなかった。そのことにまた傷つきながら生きてきた彼女たちの声を私たちは聞くべきである。そして、同じ過ちを繰り返さないために、決して忘れてはいけない。

目を背けずにこの本を読んでほしい。一人でも多くの人に読んでほしい作品である。

個人的おすすめ度 4.0