心淋し川(西條 奈加)

千駄木の付近に流れていた心川(うらかわ)。その周囲に人々が住み着いて町となった心町(うらまち)。裏町を心町とするところが人情味のある場所を表している。人には言えない事情があってここに住むようになった人たちは、互いに適度な距離で助け合いながらも、深く詮索しあうことのない距離感で暮らしている。

六編の連作短編は、心町で暮らす人々の物語。思い通りにいかなくて、歯痒くて、時には誰かを恨んだり憎んだりしながら、それでも喜びを感じながら懸命に生きている。その姿がどこかが読者としての自分に重なって、心が締め付けられうような気持ちになる。

こういう話はいくつ読んでも飽きないし、もっともっと読みたいと思う。「心淋し川(うらさみしがわ)」という表題も、本を読み終えた後にまたじわりと胸に沁みてくる。

近いうちにまた千駄木の街を歩いてみよう。いつもと違う風景が見えるかもしれないから。

個人的おすすめ度 3.5