彼岸花が咲く島(李 琴峰)

記憶を失くした少女がたどり着いたのは小さな島だった。そこで話される複数の言葉は、理解できる言葉と、理解できない言葉があったが、ノロと呼ばれる歴史と責任を背負う女性のみが使うことを許される言葉を、彼女は理解することができるようだった。自分が帰るべき場所はどこかにあるのか、あるいは一生この島で暮らしていくのか、しかしその決断が迫られる瞬間がやってくる。

島の人々は、彼女がニライカナイと呼ばれる理想郷からやってきたのかもしれないという。海の向こうにはニライカナイがあり、人は死ぬとそこへ行くのだという。島ではニライカナイからの恵みが届くという祭が行われ、ノロたちがさまざまな贈り物を持ち帰ってくる。人々はそれに感謝し、争うことなく穏やかな日々を過ごしている。

やがて彼女は決意する。そして、この島の歴史に触れることになる。人が人として生きていくために、悲しみや苦しみを乗り越える必要がある。だから、幸せな今があったとしても、忘れてはいけない過去がある。

あたたかな海に抱かれているような不思議な読後感のある作品である。

個人的おすすめ度 3.5