幻夏(太田 愛)

すべての「もし」は起こらなかったことだという。冤罪によって狂ってしまった人生は取り返しがつかない。ある家族を襲ったのは、避けられた悲劇だったはずだ。しかし、人を守るはずの法律は機能せず、他人の人生に責任を持つべき法の番人たちは無責任な行動で多くの人生を暗闇に陥れた。

刑事の相馬亮介は、ある少女が行方不明になる事件に携わる。その事件は、相馬が小学生の頃に知り合った水沢尚の行方不明事件と繋がっている可能性があった。一方、興信所の鑓水のもとに、二十三年たった今になって尚を探してほしいという依頼が来る。憶測と事実が交錯しながら、やがて悲しい物語が明らかになってくる。

読むことが辛くなるほどの痛みを感じるシーンもあり、悲しみだけでなく、怒り、虚しさなど、やり場のない感情がもつれる様に胸を焦がした。それを癒してくれたのは、相馬が過去を振り返ったとのノスタルジックな夏の光景だったように思う。

社会への問題提起もあり、心に残る作品である。あとがきを読むと、この本の関連として「犯罪者」「天井の葦」も紹介されていたので、そちらも読んでみたくなった。

個人的おすすめ度 4.0