山岳捜査(笹本 稜平)

長野県と富山県の県境、北アルプスの後立山連峰で事件は発生する。山岳遭難救助隊の桑崎と浜村は、殺害されたと思われる凍結した死体を山中で発見する。本来、殺人事件は彼らの担当ではないが、その後に発生する遭難事故もまた、この死体と関係があるとみられ、桑崎たちは事件の解決へと力を尽くすことになる。

生きている人間の命を救うための遭難救助に対して、殺人事件の捜査はすでに死んだ者を供養するために行うという面があるという。この作品の中で、命を懸けて人を救おうとする桑原たちの姿勢は心を打つ。

私自身はこんな風に死をまじかに意識したことはない。それは幸せなことかもしれないが、圧倒的な大自然を前にして、はっきりと死を意識したとき、人として生きる姿勢が問われるのかもしれない。そして、日々それを実感しながら仕事をしている人たちがいることに深い感謝を感じずにはいられない。

凍える寒さに震えている時、そこに見つけた小さな火種が何物にも代えがたい温かさに感じられるような、山の魅力が存分に伝わる山岳ミステリーである。

個人的おすすめ度 3.5