尼崎ストロベリー(成海 隼人)

尼崎という場所には二度しか行ったことがないが、なぜかノスタルジーを感じる。私が下町で育ったからかもしれないが、多くの人にそう感じさせる魅力のある街でもあるのだろう。おしゃれな街で感じるアウェイ感に対して、圧倒的な安心感があるのが尼崎だと思う。

尼崎ストロベリーは、高校生の主人公その母、そして親友らが織りなす笑いと涙の物語である。この作品は最初から最後まで笑いに溢れている。ふとした隙を突かれて笑い、その呼吸が整う間もなく畳みかけるように次のオチが待っている。

母は言う。野球やサッカーをするにも道具がいるが、漫才は何もいらん。想像力だけあったらできる。貧乏人の味方だと。決して楽ではない母子の暮らしは、常にこの笑いに助けられている。その彼らに、さらに厳しい運命が訪れるが、ただ暗くなることはなく、母の愛情が主人公を成長させていく。

これほどたくさん笑った作品はあまり記憶にない。笑い、笑い、そして涙を流し、また笑った。本当にわかりやすく感情を揺り動かされた。尼崎の魅力とともに、前向きに生きるためユーモアがどれほど大切かが伝わる作品であった。

個人的おすすめ度 4.5