少年と犬(馳 星周)

飼い主を失ったと思われる多聞(たもん)という犬との出会いが、人々の心を隙間を埋めていく。東日本大震災によって仕事をなくした男、窃盗団の外国人など、各章ごとに問題を抱えた人間の視点から描かれる物語だが、主人公はあくまで犬である。ある意味、犬を主人公とした道中記である。

動物と暮らしたことがある人にはよくわかるかもしれないが、一緒に暮らす動物が人間の心を察しているなと感じることがある。賢い犬であれば尚更だろう。他人には隠そうとする気持ちも、この犬には見透かされ、しかしそれが安らぎをもたらしてくれる。そして、人間としての最後の一線を保たせてくれる。

犬は淡々と自分の役割を果たし、そして向かうべきところを目指していく。人から見たら想像を超える行動であっても、犬にとっては理屈などなく、ただそうあるべきで、そうすべきことが当たり前だったのかもしれない。

多聞に幸あれ。

個人的おすすめ度 3.5