小説伊勢物語 業平(髙樹 のぶ子)

平安の世に生きた在原業平という人物が見事に浮かび上がる作品。伊勢物語は平安時代につくられた貴族の男性を主人公とした歌物語集だが、この恋多き主人公は業平をモデルとしているとも言われている。小説伊勢物語の中で、業平や女性たちが、歌を交わしながら思いを伝えあう様は、恋に溺れながらもそれを楽しむ雅に溢れている。

読まれる歌には日本語の面白さや美しさがあり、時代を超えても普遍的な人の心を伝えてくれる。そして、それぞれの歌が詠まれたシチュエーションが具体的に描かれることによって、詠み手の思いや受けとった者の反応をよりリアルに想像することができた。

それにしても、業平という人は色男である。この作品だけを読むと、生涯を恋に捧げて生きた人物ではないかとさえ思う。恋愛は相手が会ってこそ成り立つものだが、満たされないからこそ生涯をかけて追い求められるというものかもしれない。

現代のように、SNSなどで小さなことでも揚げ足を取られてしまうような狭小な世の中では、こうした人物は生きづらいかもしれない。そう考えると、平安の世には、今よりも人々の心に余裕があったのかもしれない。

個人的おすすめ度 3.5