夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田 そのこ)

生きづらさを感じる瞬間や、自分が生きている意味を見失うとき、たった一人でも寄り添ってくれる人がいたら、それだけで前を向いて生きて行ける気がする。表面だけではわからない優しさや、笑顔の底にある厳しい決意があったりする。そうした人々の心のありようを美しい言葉と情景で紡ぐ連作短編小説は、読み終えてなお余韻で涙が零れるほど心に響く作品だった。

どこにいるかわからない男を思う女性や、母を思いながら覚悟を決める男の子、祖母に育てられて強く生きる女の子、亡くなった恋人への思いを引きずって生きる女性、不倫で妊娠した女性と、かつて同僚だった元男性、ふらりと遠くへ行きたくなってしまう工場勤務の女性、夫の暴力に耐える女性など、少なからず問題を抱えながら必死に生きている人々が描かれているが、感じるのは同情などではなく生きる勇気だ。葛藤しながら生きる彼らの姿は美しいのである。

人の痛みを想像できる人間でありたい。同じ立場になることも、ましてや同じ人間になることもできないが、一人ではないと感じることが生きていく力になるのかもしれない と、今、読了して素直に思う。

個人的おすすめ度 5.0