夜の戦士 川中島の巻/風雲の巻(池波 正太郎)

甲賀忍者の丸子笹之助は、武田信玄暗殺の密命を受け、先輩格の忍者・孫兵衛と共に武田家に仕官する。しかし、忍者としては致命的な心の弱さを抱えた笹之助は、信玄の侍女に恋をし、さらには信玄にも惚れ込んでいく。

孤児であった自分を育ててくれた甲賀を裏切るのか、それともあくまで密命を遂行するのか迷いながらも、自らの理屈で自身の行動を肯定しようとする笹之助。それに対し、忍者としての仕事を全うしようとする孫兵衛との関係は、物語の冒頭からこの作品の一つの軸となっている。

一方、武田信玄の圧倒的な魅力は、笹之助が悩むのも仕方がないと思わせるほど素晴らしい。裏の世界でしか生きられない忍者という存在とは対照的に、常に光に照らされる信玄の生き様が目の前で繰り広げられていく。

歴史を知っていてなお、手に汗握る展開に目が離せなかった。個人的には、孫兵衛の頑なな生き方が悲しくもあり、その人物像に惹かれた。

四十年以上前に書かれた作品だが、本当に良い作品はいつ読んでも面白い。

個人的おすすめ度 4.0