境界線(中山 七里)

福島県気仙沼の海岸で女性の遺体が発見された。女性が所有していた身分証明書には笘篠とあった。五年前に東日本大震災で津波にさらわれた笘篠の妻の名前である。刑事の笘篠は現地へ向かうが、そこで見たのは妻とは別人の遺体だった。

笘篠の妻の名を語って生活していた女の正体は誰なのか。そもそもなぜそのようなことになったのか。笘篠は憤りを抑えながらその背後を追っていくが、その中で新たな事件が発生する。

東日本大震災が奪ったものは、人の命ばかりではなかった。笘篠をはじめ生き残った多くの人々の心から、人として大切なものを奪っていった。そこにいた者でなければ決してわからない深い苦しみがあるのだろう。

リアリティを感じる結末──人の命に対する一言が心に刺さる。彼らがこれからの人生において希望を見つけることを切に願う。物理的な意味ばかりでなく、人の心も含めて、震災からの復興はまだ半ばである。

個人的おすすめ度 3.5