吉原十二月(松井 今朝子)

江戸時代の中頃、田沼意次が権勢を握っていた時代、吉原はそれはそれは華やかな活気に溢れていた。大籬の舞鶴屋四代目楼主である庄右衛門は、売られてきた二人の少女を立派な花魁に育てるために心血を注ぎ、その成長を見守っている。やがて二人は、小夜衣と胡蝶という吉原を代表するような花魁へと成長するのだが、そこにはたくさんの物語があった。

十二章の物語は、睦月(一月)から師走(十二月)まで各月の季節を感じさせる話題がある。その中で、切磋琢磨しながら成長していく二人の姿があり、人との出会いや恋があり、決して安易ではない彼女たちの人生を読んでいると、そのたびに庄右衛門が感じる思いに素直に共感した。楼主として商売道具ではあるけれど、決してそんな風に割り切れない、むしろ家族のような愛情がそこにはあった。

当時の雰囲気もとてもよく伝わってきて、粋な遊び方であったり、無粋とはこういうことなんだなと理解できたり、こうしたことがなくなってしまったのかなと思うと寂しさも感じてしまう……私が世間知らずなだけかもしれないが。そこには男と女の色恋だけでなく、確かに文化的な香りがするのである。

著者の「吉原手引草」も名作であったが、この「吉原十二月」もそれに並ぶ名作であることは間違いない。読み終えてしばくしても心の中に温かいものが残る素敵な一冊だった。

個人的おすすめ度 5.0