出星前夜(飯嶋 和一)

歴史を学ぶというのは、年号を覚えることに非ず。なぜ人々がそのような歴史を歩んだのか、そこにあった人々の心を想像し、未来への学びとすることこそ、歴史に学ぶということなのだろう。そのことを痛感させられる作品である。

小中学生で習った島原の乱は、キリスト教徒による武装蜂起だったという程度のものであった。キリスト教が禁止され、それに対する反発だったといった認識しか持ち合わせていなかった。まったく不勉強極まりなかったと思う。この作品では、なぜ彼らは勝ち目のない戦いのために蜂起したのか、それを選択せざるを得なかった背景を丁寧に描いている。人々を支配しようとする為政者にとって、ギリギリの生活を続け、それでいて抵抗せず、求められるままに納税し続けてくれる住民ほど有難いものはない。そのために、キリスト教の禁止という施策は、人を支配するための口実として都合よく使われたのである。

住民たちの蜂起への共感は、判官贔屓という言葉で表現されるような弱い立場の者への同情ではない。人が人として生きようとする強さへの共感である。同時に、単なるきれいごとではない人々の姿、宗教を信じて聖なる死を受け入れるよりも、ただ生きたいと願う人々の行動にも共感する。そこに、愚かで愛すべき人の姿が、私と同じく赤い血が流れる同じ人としての姿が見えた。

この一冊と出会えたことに感謝したい。そして、多くの人にこの本が読まれることを願う。

個人的おすすめ度 5.0