八月の銀の雪(伊与原 新)

今だからこそ感じる人との出会い、そして繋がりの大切さ。表題作を含む五編の出会いの物語は、人の温かさを思い出させてくれる素敵な作品ばかりだった。

「八月の銀の雪」は、就活中の大学生と、コンビニで仕事をするベトナム人留学生の出会いが描かれている。見えないものに意識を向けることで、見えている景色もまったく違ってくるのだと教えてくれる感動作である。五編の中で私が最も好きな作品がこれだった。

「海へ還る日」は、シングルマザーの女性が、ひょんな出会いから鯨に思いをはせていくもので、鯨たちの生き方と人間の生き方を重ねてみると、目から鱗のように気づくことがたくさんあった。

人と鳩の関係を描いた「アルノーと檸檬」、素敵な美の世界を感じられる「玻璃を拾う」、そして原発と過去の歴史を重ねて人間を見つめる「十万年の西風」。いずれの作品も、ヒューマンドラマとしての楽しみに加え、新たな知識や着眼点がとても面白く、読み終えるとだれかに話したくて仕方がなくなる。

彼らの出会いを思い返すと、心の澱が消えたような清々しさを感じる。日常にかまけて余裕がなくなって殺伐としてしまうことがあるが、そんなときには、またこの本を開いて心の呼吸を整えたいと思う。

個人的おすすめ度 4.5