ワカタケル(池澤 夏樹)

日本の第21代天皇である雄略天皇(ワカタケル)を描いた本作は、今から千五百年以上前の古墳時代、現代とは倫理観も異なる世界を、人の世の物語としてしっかりと描いた作品である。

ワカタケルの身の回りには、常に死があったように思うが、人間の歴史を顧みれば、権力者から見た庶民の人命の軽さは、当時も昨今も大差ないのかもしれない。一方で、自らの命を狙うかもしれない豪族たちや、海を隔てた宗、高句麗、新羅、百済などの海彼との関係など、国の舵取りは今と変わらず大変なものだったと想像する。

この作品での見所の一つは、女性たちの活躍である。大王を支える大后の影響力の大きさであったり、あるいは女性天皇の存在にも触れている。ワカタケルの物語ではあるが、ヤマトタケル、ヒミコといった人物への言及、あるいはワカタケル以降の天皇との比較もある。

読み終えてすぐにはまだ頭の中で整理しきれないことがあるが、何より凄いことだと感じるのは、この時代から現代まで天皇がずっと存続し続けていることである。そのおかげで、今いる自分自身の存在もまた、過去の人々のおかげであるということを実感として感じられるのである。

この本をきっかけとして、日本のことをもっとしっかり学びたいと思う。自らのこととしてこの国の歴史を学ぶ必要性を感じた。

個人的おすすめ度 3.5