ユリゴコロ(沼田 まほかる)

押し入れに隠されていた4冊のノートには、繰り返される殺人の告白が生々しく書き綴られていた。それを書いたのは母なのか、それとも父なのか、あるいは別の人物なのか。そしてそれは事実なのか、創作なのか。

単純なサイコパスのような猟奇的な物語なのかと思って読み始めたが、予想に反してまったく異なる読後感となった本書。何者かの独白に書かれる「ユリゴコロ」だが、主人公、父、母、弟など、一人一人の心が振れる様こそまさに「ユリゴコロ」ではないかと思う。

おぞましさと美しさが表裏一体となる瞬間、手首から流れる真っ赤な血は、残酷な死を想像させながら、人間の温かさをも感じさせる。命の始まりと終わりは、物質にとっては単なる過程かもしれない。しかし、人間は始まりと終わりの中で愛を感じるのだ。

読了したときに感じる温かさが、私にも確かに人間としての血が流れていることを実感させてくれた。

個人的おすすめ度 5.0