ヘヴン(川上 未映子)

公平な世の中など幻想に過ぎない。十四歳の僕が知った現実だった。だから自分でどう生きるかを決めなくてはいけなかった。たった一人の友達だった彼女がそのことを教えてくれていたのに。圧倒的な切なさと虚しさ。彼が最後に見た普通の世界には、空虚な美しさが広がっていた。

苛めに合う僕が、自分の現実をどう受け入れていくのか。そして、苛めに合う彼女は、その現実を受け入れながら僕に語り掛ける。僕や彼女の役割は何なのか。いじめる奴らは何のためにそうするのか。彼女はそのことを僕に語る。僕は何かをわかったつもりになっていたけれど、何もわかっていなかったのだろう。

有無を言わさず突きつけられる圧倒的な現実に胸が苦しくなる。ただの傍観者である読者の私は、知らなかったこと、見なかったことにしたいと心のどこかで願いながら、決して目を背けることは許されなかった。

この世のヘヴンはどこにあるのか──その疑問が頭から離れなくなった。

個人的おすすめ度 4.0