パレートの誤算(柚月 裕子)

市役所の社会福祉課に配属された主人公・牧野聡美は、生活保護受給者に対してあまり良いイメージを持っていなかった。受給者を訪問することに抵抗を感じる聡美に、ベテランケースワーカーである山川の言葉に少し心を動かされるが、その山川が殺害されてしまう。そして、事件の裏には、生活保護受給者を食い物にする貧困ビジネスが見え隠れしていた。

人には表の顔と裏の顔がある。善人にしか見えない人が悪事に手を染めたり、あるいは悪人だと思われている人の良心を垣間見たりする。受給者も人間であれば、それを食い物にする者たちも人間である。社会福祉課の職員も、事件を追う刑事も、当たり前だが人間である。そうした人間の在り方を「正義はどこにあるのか」という視点で見たとき、最後は正義が勝らなければ幸福な社会は訪れないのだろうと思う。

事件の全容が明らかになっても、失われた命は戻らない。そして、他人を食い物にする人間もまた後を絶たない。ただしそれをもってパレートの法則が当てはまるということではないだろう。すべて読み終えたとき、このタイトルの意味が心に響いた。

個人的おすすめ度 3.5