バラカ(桐野 夏生)

東日本大震災が露わにしたのは、この国に住む人が気づかないふりをしてきた沢山の綻びだったのだろうか。絆の大切さが語られる一方、人の不幸を踏み台にした幸せが存在していることが露わになったのではないか。この物語は、闇の市場で売られた幼女バカラが逞しく生きていく様子と共に、日本という国が抱える問題を象徴的に描いている。

妻や子供を失ってからその愚かさに気づく男、子供が欲しいという願いから命の売買に手を染める女、人を愛することができず人を騙すことだけに自分の存在感を感じる男、自らの運動に子供を巻き込む大人など、この物語には程度の差こそあれ愚かな人々が登場する。読んでいて不快になるのは、その人たちの姿が少なからず自分自身にも当てはまるからである。

一方、バラカのことを応援する人々にも共感する。危険を冒してもなお一人の少女を助けたいという思いは、この社会にはまだ光があることを感じさせてくれる。彼らにとってバラカを助けることは、自らが暮らす社会をより良いものにすることとイコールである。

読み終えてふと思う。今の日本は、この物語に描かれているような悪意がまかり通る社会と異なるものだろうか。それとも同質のものだろうか。バラカという一人の女性の生き方に強く惹かれる物語であると共に、現実の問題を突き付けられたように感じた作品だった。

個人的おすすめ度 4.0