ハサミ男(殊能 将之)

ミステリー小説を読む醍醐味は、読者として見事に騙されるところにあると思っていたりする。あれこれ考えを巡らせ、予想をしてみて、見事にその裏をかかれたときの快感は何とも言えない。

この作品の主人公はハサミ男と呼ばれる殺人鬼自身である。そして、ハサミ男の犯行が疑われる第三の事件が発生するのだが、ハサミ男自身がその第一発見者となってしまう。そして、主人公自身がその事件の真犯人を探っていくことになる。コメディなのかと思ってしまう展開だが、著者のとてつもない構成力によってこの作品の圧倒的な面白さに引き込まれた。

殺人鬼の立場から事件の真相に迫ろうとする主人公。一方、警察はプロファイラーを擁してコツコツと事実を積み重ねてハサミ男に迫っていく。文面からも緊張感が漂うが、ちょうどよいタイミングで登場人物たちの和むような会話があり、最後は若手刑事と共に騙される心地よさを感じながらあっという間に読了まで駆け抜けた。

20年以上前に発表された作品だが、良質なミステリーはいつ読んでも面白い。

個人的おすすめ度 4.5