デンジャラス(桐野 夏生)

文豪・谷崎潤一郎の三番目の妻、松子の妹である重子の視点から、谷崎家の人間模様を描いた物語。谷崎潤一郎という人物をここまで掘り下げているだけでなく、妻や姉妹、子どもたち、さらにはその伴侶などを、ここまで個性的に描いている作品はほかにあるのだろうか。

谷崎潤一郎は、周囲の人々をモデルとして小説を描いたと言われるが、松子や重子が自らを描かれることに何を感じていたのかということは正直あまり考えたことがなかった。しかし、この作品の中では、谷崎作品に描かれることの喜び、あるいは嫉妬などが入り混じった感情が見事に伝わってくる。一方、そうした人々の感情を弄ぶかのような谷崎潤一郎の姿にも恐ろしいほどのリアリティを感じた。

この作品は読む人にとって感情移入する箇所が異なるように思うが、これがまるで谷崎家のドキュメントかと錯覚してしまうほど一人一人の描写が素晴らしい。この本をこれから読むのであれば、事前に谷崎作品の有名どころをいくつか読んでから手に取るとなおよいのではないかと思う。

個人的おすすめ度 3.5