デッドエンドの思い出(よしもと ばなな)

五編の短編はどれも切ないが、決して後味は悪くない。それぞれの主人公が切なさを乗り越えて、あるいは切なさを抱いたままでも、前に踏み出していく瞬間が描かれているからである。

最期に収録された表題作は、主人公の喪失感や心の痛み、そしてそれが癒されていく過程が丁寧に描かれていて、読んでいてじわじわと心に染みてくる。ほかの短編の中にも人との別れがあったり、自分でも気づかない心の傷ができていたりする。

幸せは当たり前に消費されるものではなく、かといって求めて努力しても手に入らないこともある。そうしたことを経験したり知ったりすることで、人は幸せの価値に気づくのかもしれない。

読了後、淡い色合いの切なさが胸に残る。それは素敵な思い出として人生に刻んでおきたい一頁である。

個人的おすすめ度 3.5