デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場(河野 啓)

「七大陸最高峰 単独無酸素登頂」を目指し、最後の山であるエベレストに挑戦して亡くなった登山家・栗城史多。山のことを知らない人間が見れば、単純に凄い挑戦をしている登山家だと理解するだろう。しかし、それは彼を単なるエンターテイナーとして眺めたときの、ほんの表層に過ぎなかった。

エベレストへの挑戦が何度も阻まれる中で、初期には彼を応援する声ばかりだったものがやがて批判に変わり、さらには関心すら薄れていってしまう。それでも彼は挑戦することを止めず、両手の指を九本も失いながら、過酷なルートへの挑戦を宣言した。結果として命を失った彼が描いていた世界はどのようなものだったのだろう。

彼を見る著者の距離感は、遠すぎず、かといって近すぎることもなく、だからこそ見えた部分があるように感じる。近くにいなければわからない面はもちろんあるとしても、単に称賛したり批判するのではなく、栗城史多という人間を理解したいという姿勢が文章の端々から感じられた。

亡くなった者が何を考えていたのか、その正解を確かめることはできない。それでもなお、もし彼が生きていてら、どんな挑戦をしていただろうかと考えてしまう。人に何かを期待させる栗城という人の魅力が、そこにあるのだろうと理解した。

個人的おすすめ度 3.5