テスカトリポカ(佐藤 究)

麻薬密売、臓器売買など、裏社会のキャピタリズムが淡々としたビジネスとして描かれていく様は、ふと気づくと企業小説を読んでいるかのような錯覚に陥る。そして、裏ビジネスに携わる人々のメンタリティも生々しく描かれ、気づけば共感しかけてしまう自分に恐ろしさを感じた。巨額の金が動く裏で、数えきれないほどの命が軽々しく失われていく現実は、おそらく小説の中だけでなく人間社会の現実なのだろう。そう思うと、あまりに平和ボケしている自分に驚いた。

物語は、メキシコにルーツを持つ青年コシモと、メキシコの麻薬密売組織を「経営」していた男バルミロを中心に描かれていく。人の命を奪うことに躊躇のないバルミロは、自らの行動の正当性をアステカ文明に準えて説明するのだが、そこには抗うことができない人間の業のようなものを感じた。人の命に対する価値観も、人それぞれ大きく異なるものだのだと考えざるを得ないだろう。

目を背けたくても、文字を読めば必然的に残酷なシーンを眺める必然。一生知らずに済む世界なら知らない方がいいかもしれない。しかし、自分が知らないだけで、実際の世の中では毎日こうした出来事が繰り返されているのかもしれない。

個人的おすすめ度 3.5