ゼロエフ(古川 日出男)

福島で生まれた著者が、故郷のこと、東日本大震災や災害のことやその被害者のことに向き合ったドキュメント作品。原発事故をどう考えるのかということもあるが、福島=原発事故ではなく、自身や津波で失われた命があり、それ以前にも、それ以降にも度重なる災害で失われた命もあった。それらはメディアで報じられることもなく、本当に現地を歩き、気づく努力をしなければ、永遠に人々の記憶からも失われてしまうかもしれない。

また、国は政府であり、国家は私たちが属する家と定義してみて、国が「国民の皆様」と言った時に果たして表面に見えてこない人々は「国民」に含まれているのだろうかという疑問がある。そして、この国には果たして国民全員が属する「家」、つまり国家と呼べるものがあるのだろうかという問題を投げかける。

表層だけを眺めて、さも知った気になっている場所──その象徴が福島という場所かもしれない。また、福島と接する宮城だったり、あるいは福島の中でも様々な場所によって、一括りにすることができない場所や物事を、乱暴にまとめてしまっていることもあるように思う。

決して読みやすい文章ではないが、著者の内面から沸き起こるような感情が伝わってくる。ただ原発が悪いとか、原発がなければよかったといった見方ではなく、より深く社会の在り方を考える一助となる作品である。タイトルとなっているゼロエフ(0f)という言葉の意味も噛みしめたい。

個人的おすすめ度 3.5