シリウスの道(藤原 伊織)

主人公は大手広告代理店の副部長。彼が所属する部署を指名して、某企業のコンペへの参加依頼が届く。内部干渉とも言えるような部署の指名の理由は何なのか。このコンペに臨む上司や新人など同僚たちの活躍、あるいは足を引っ張る者たちの人間模様がとても面白い。

一方、主人公が子供の頃の話が並行して描かれ、彼がもつ正義感がどのように形成されてきたのかを感じながら、やがて複数の伏線がつながりをもって現れてくる展開に引き込まれる。

とにかく登場人物の一人一人が個性際立つ人物ばかりで、それぞれが魅力を放っている。あえてジャンル分けすればハードボイルドミステリーなのだろうが、いわゆる男の世界というよりも、主人公が筋を通して生きる背中が格好いい。

未来に希望が見える結末にも拘わらず、読後感は切なくてたまらない。その先をさらに読みたくても、もう最後の一行がそこにあり、その先は想像するしかないのだ。人間の選択というのは、単なる損得でしか選択できないコンピュータには決して理解できない世界に違いない。とにかく寝不足必至の作品である。

個人的おすすめ度 5.0