サスツルギの亡霊(神山 裕右)

南極で死んだはずの兄から手紙が届いた。カメラマンの矢島拓海は、導かれるように真相を求めて南極へと旅立つ。そこで待ち受けていた兄の真実、そして次々と起こる事件。

南極という場所の厳しさや、ある意味で密室となる地域での人間関係、そして主人公と兄の歯がゆい関係、それらが臨場感を伴って伝わってくる。まるで映画を見ているかのように映像が浮かび、手に汗握る展開が頁を捲らせる。

そして、私は次の表現に心を打たれた。
「この氷の世界は、人が生きていくのに必要な物があまりにも足りない。(中略)ここには必要のない人間は存在しないのだ。それぞれが自分の専門知識を生かして助け合い、必要不可欠な戦力として誰からも認められている。それだけ責任も大きいが、頼りにされているという充足感はある。」
これこそは、多くの人が求めているもの、つまり生きる理由ではないかと思う。

兄が求めていたもの、そして主人公が求めていたもの──事件の真相の先に主人公がたどり着いた境地こそ、彼らがずっと求めていたものだったのかもしれない。

個人的おすすめ度 4.0