サクリファイス(近藤 史恵)

ロードレースについては薄い知識しかなく、きちんと見たこともなかった。それでもこの作品の圧倒的な臨場感に浸った。

オリンピックも狙えると言われた陸上選手は十八歳でロードレースに転向し、社会人となってからはプロのチームに所属していた。彼の役割は、エースと勝たせるためのサポートである。つまり、エースの勝利のためのサクリファイス(犠牲)がその仕事である。

チームのエースは、かつて次期エース候補と言われた新人を、故意に起こした事故で再起不能にさせたという噂があった。そしてまた事故が起こる。その背後景にある謎を追いながら、主人公は疑念を振り払えずに、晴れない思いを抱えたままレースに臨んでいく。

畳みかけるような後半の展開には、驚きもあり、そして涙が自然と零れてしまった。ただ心が熱くなった。自転車、面白いじゃないかと気づいた。これを読んで自転車を買おうと思ったり、レースを見に行こうと思ったりする人が多数いるというのは当然だと思う。

全ての霧がすっきりと晴れるのかどうか、それはぜひ本書を読んでみてほしい。続編もあるので、さっそくそちらも手に入れて読み始めよう。

個人的おすすめ度 4.5