キツネ目 グリコ森永事件全真相(岩瀬 達哉)

かつて世間を混乱に陥れたグリコ森永事件──未解決事件の真実を追ったドキュメントである。なぜ犯人は捕まらなかったのか。脅迫された会社、警察、マスコミなど、それぞれがどのような行動をしたのか。そのことから見えるのは、単なる事件の事実ではなく、社会構造の問題点でもあった。

事件の概要は知っていたが、それはあくまで昔のニュースや番組で見たというレベルだった。しかし、本作品を読むと、事件に直接関連した人々の姿が浮かび上がるだけでなく、犯人像すら見えてくる気がする。事件が時効になったのち、取材に応じた人々、あるいは取材を拒否した人々、それぞれの心には死ぬまで忘れることができない思いがあったことと想像する。

第三者的な立場で眺めるだけなら、ひとつひとつの出来事を追って、逮捕のチャンスを逃した警察を批判したり、闇取引に応じた可能性のある企業を問題視するのは簡単だ。しかし、それこそは犯人が望んだものではないかと思う。そして、人々を愚弄した犯人はまだこの社会で生きていることだろう。

事実は小説より奇なりとはまさにこのことである。全体の構成もよく、納得して読むことができた一冊だった。

個人的おすすめ度 3.5