キアズマ(近藤 史恵)

ロードレースの世界を描いたサクリファイスシリーズの第四弾は、大学生になって初めてロードバイクに乗り、その世界にのめりこんでいく若者の物語。これまでの三作品はプロの世界だったが、より読者に近い視点で描かれた本作を読むと、よりロードレースの世界を身近に感じることができる。

大きなテーマとなっているのは、なぜ自転車に乗り、なぜレースを走るのか、それぞれの登場人物のモチベーションが丁寧に描かれている。彼らが抱える葛藤には胸が苦しくなるが、それを乗り越えていってほしいという願いを込めてページを捲った。

物語の最後のレース、主人公と共に走った仲間の行動にとても感動した。はっきり言えば、まるでまだ始まったばかりかのような展開でこの本は幕を閉じるが、その先に彼らの無限の可能性が見えている。キアズマというタイトルの説明が冒頭にあるが、読了したとき、その意味が自然と腑に落ちた。

個人的おすすめ度 4.0