エデン(近藤 史恵)

自転車ロードレースの世界を描いた傑作「サクリファイス」の続編。フランスのチームに移籍した白石誓たちはツール・ド・フランスに挑む。三週間かけてフランス全土を走るレースの中で、男たちのドラマが繰り広げられる。

次年度にはスポンサーがなくなるチームは、レース中にバラバラになりそうな不協和音を醸している。一方、地元フランスの新人ニコラの活躍によってレースは盛り上がりを見せるが、同時に黒い噂も聞こえるようになる。緊張感や勝利への執念、犠牲と裏切り、それぞれの思いが犇々と伝わってくる。

このシリーズの面白さは、自転車レースのことを全く知らなくても、レースの圧倒的な臨場感を味わうことができることである。そして、いつのまにか専門用語を覚え、読み終えたときには自転車レースに興味を持つようになってしまうことである。

痺れるシーンが随所にあるが、私が特に感動したシーンがある。ピレネー山脈を走る一日、常にエースのサポート役である白石は、はじめてその日の一位を取れるかもしれない位置につける。そこでこう語る。

「勝てるかどうかはわからない。だが、はじめて知った。そのわからないことが希望なのだと。」

ラストには劇的なドラマがある。それは読んだ者だけが感じられる希望である。シリーズはさらに続くが、読まないという選択肢はもはやあり得ないだろう。

個人的おすすめ度 4.0