ウツボカズラの甘い息(柚月 裕子)

ウツボカズラというのは食虫植物である。甘美な臭いで虫を誘い込み、それを養分として生きている。持病を抱えながら日常に追われる主婦・高村文絵は、まさに恰好の餌食だったのか。

偶然再会した中学生時代の同級生・加奈子は、怪しさを放ちながらも、美と金という魅力的な餌をぶら下げている。抗いがたい人間の欲望は、やがて自分の行動を正当化することで心の均衡を図ろうとする。もし自分自身がその立場だったとしても、そこから逃れることができたかどうかわからない。

殺人事件が起き、加奈子との連絡が付かなくなり、文江は窮地に立たされる。それは自分で蒔いた種かもしれないが、同情を禁じ得ない背景もある。罪悪感の伴わない悪意がどのように育てられていくのか──そこには驚きの結末があった。

個人的おすすめ度 4.0