らんたん(柚木 麻子)

明治初期から大正、昭和と、激動の時代を生きた河井道という女性。その視線の先には、すべての人々が平等な社会と、それに基づく世界平和という大きな志があった。女性の社会的な役割を認め、教育機会を作り、地位を向上することは、今なお日本社会においては十分とは言えないが、それでも今があるのは彼女たちのような志を持った人々の苦労なくして語ることはできないだろう。義務教育を誰もが受けられること、選挙権を誰もがもっていること、あるいは自由な発言をして自由に生きられることも、すべては当たり前に与えられるものではなく、彼女たちのような存在が戦い、勝ち取ってきたものにほかならない。

この作品には、恵泉女子学園を日本の女子教育などに多大な貢献をした河合道ばかりでなく、女子英学塾(現津田塾大学)を設立したが津田梅子、鹿鳴館の花と呼ばれた大山捨松、あるいは青鞜を世に送り出して女性解放運動を推進した平塚らいてうや伊藤野枝、さらにはNHKの朝ドラでも描かれたことのある村岡花子や広岡浅子といった人物など、この時代に活躍した女性たちがそれぞれ繋がりを持って描かれていることも読んでいてワクワクするところだ。

一方、登場する男性の幾人かはなんとも言えないだらしなさを晒している。特に作家の徳富蘆花は男尊女卑の権化のように描かれ、有島武郎もまた少なからずそのような人物設定だが、こちらは多少なりとも人間味を感じるところもある。ただ、令和の時代になっても、こうした感覚を持った男というのは存在しているので、人の心が変わるには時間がかかるものだなという思いをもって読了となった。

どんなときでも常に前を向いて生きる河合道という人の生き方に心を揺さぶられた。小説を楽しみたいという方はもちろん、歴史を振り返るという意味でも一読の価値あり!

個人的おすすめ度 4.5