ひまわりの祝祭(藤原 伊織)

主人公の秋山秋二は、かつては才能溢れるアートディレクターだった。しかし、七年前に妻が自殺してからは、会社を辞め、銀座にあるぼろ屋で、生きる目的を見失ったまま日々を過ごしていた。その彼の元に、かつての仲間がやってきて、500万円を捨てる手伝いをしてほしいという。

平穏だった日々は、その時からわずかの間に命の危険を何度も感じるような展開を迎える。その背後には、妻が語っていたことのある、ゴッホのひまわりの絵の存在があった。妻はなぜ死んだのか、そしてひまわりの絵の謎とは……複雑に絡み合う人間模様とスピード感あふれる展開に引き込まれる。

一人称で語られているにも関わらず、客観的な情景描写のように感じる表現が素晴らしく、また、個性的な登場人物たちとの会話も秀逸である。加えて、謎が解き明かされたかと思うと、また新たな謎が出てくる構成は流石としかいいようがない。二十年以上前に書かれたものだが、古さを感じさせるどころか、その時代の臨場感も見事に伝わってきた。

物語の終盤、誠実とは何かという主人公の問いかけがあるが、それぞれの立場によってその意味は大きく異なるのだろうと思う。これは読者自身への問題提起でもあるかもしれない。

個人的おすすめ度 4.0