つけびの村 噂が5人を殺したのか?(高橋 ユキ)

山口県の限界集落で起きた連続殺人放火事件。なぜこのような事件が起こったのか、事件当時にメディアやネットで広がった噂は本当なのか、著者は現地へ足を運び、その真実に迫ろうとする。

犯行に及んだのは、親の介護のために出戻ってきた男。男は、村人たちが自分の悪口を言ったり、あるいは犬を殺されたりしたことから、それに反発して犯行に及んだと話す。SNSでは村人を批判する声も拡散されたが、容疑者と対面するとそこには違和感があった。村人たちに話を聞いていくと、長い時間をかけてできてきたその社会の姿が見えてくる。そしてそれは他人事ではなかった。

私たちが毎日ニュースを見るのは、いわば他人の噂を楽しんでいるようなものである。自分には直接被害のない事件に一喜一憂し、想像し、時には妄想すらして、そのことで誰かと議論したりする。村では、村人同士の噂が日々の娯楽でもある。他愛のないものばかりでなく、時には悪意を含んでいるものもあるかもしれない。言ってみれば、それが人間社会というものだ。

後半では、この事件の裁判の結果と、それに対する考察がある。精神鑑定と刑罰の関係について、現在の法律には不備があるのではないかと確かに思う。人が人を裁くということは本当に難しい。誰のために、何のために刑罰があるのかということを考えさせられる。

この本を読んでいる私もまた、他人の事件に興味を持ち、誰かの噂に耳をそばだてて生きているのである。

個人的おすすめ度 3.5