2007年の三十九歳の俺、そして2039年のプロレスラー・アムンゼン、二人の物語はどう繋がっていくのか。
そして、もうひとつ「こうふく みどりの」に描かれていた緑たちも同じ世界、同じ時間を過ごしているかもしれないという不思議。
しかし、著者の西加奈子さんが後書きに書かれている通り、もし同じ時間の出来事を書いた物語があり、それが実際にあったと仮定したら、二つの物語は同じ世界、同じ時間を共有しているのではないかと想像できる。
本書、「こうふく あかの」では、二人の主人公は男性である。
にも拘わらず、大きなテーマは「女性性」ではないかと感じた。
それは、性としての女性ということだけでなく、女性的な感性と男性的な感性の違いということでもある。
社会的には評価されていると感じる三十九歳の主人公と、主人公から見たらアホに見える妻。
主観で描かれる「俺」の姿から、彼のアホさが客観的に見えてくるのは、著者の絶妙な表現によるものだろう。
そして、男性の読者であれば、そこに少なからず自分自身の要素を見つけるかもしれない。
主人公の俺が、あるとき自分の惨めさを痛感するシーンがあり、そのときにこう思う。
『猪木になりたい。そう思った。そう思うと、少し泣けた。』
これを読んで、つい、あぁ、わかるなぁと共感しまった自分がいた。
物語の結末はここには書けないが、後味は悪くない。
「こうふく みどりの」とあわせて、巻末にある西加奈子さんと西原理恵子さんの対談も大変面白かった。
個人的おすすめ度 3.5