おれたちの歌をうたえ(呉 勝浩)

読み終えてなお、この作品の世界にしばらく浸っていたかった。自分自身が年齢を経て過去を顧みたとき、どのような感慨を抱くのだろうかと、そんな想像をしたくなる読後感があった。

子供のころ、ある事件から栄光の五人組と言われるようになった彼らだが、それぞれの人生歩んで離れてしまっていた。時代は過ぎ、人生も後半戦となった彼らだが、五人組の一人、元刑事の久則のもとにある連絡が入った。仲間の不審な死をきっかけに、それぞれが歩んだ人生が描かれ、そして過去から現在に至る当時の事件の真相が明らかになっていく。

この物語に没頭してしまう大きな要因は登場人物たちの人間臭さである。五人組だけでなく、その周囲の人々の存在すら生々しく感じてしまい、今なお彼らが実在しているのではないかとさえ感じている自分がいる。作家の力量とは、いかに登場人物をリアルに感じさせるかということにもあると思っているが、まさにこの作品でそのことを強く感じた。

また、永井荷風をはじめとする文学の要素も散りばめられ、文学というものが人生に少なからず影響を与えるものだということも伝わった。そして、今のところ映像化されていないが、すでに目の前に映像が浮かび上がっているほどの臨場感を味わった。

個人的おすすめ度 5.0