うなぎ女子(加藤 元)

鰻が食べたい──読み終えた第一声はそれだった。

鰻屋「まつむら」へやってくる女子たちの物語だが、5つの物語の中には常に典型的なダメ男の権藤祐一が出てくる。祐一と長く同棲している笑子、学生時代に祐一に告白して拒否された加寿枝、祐一と同じ屋根の下で暮らすことになった史子、病院で祐一と出会った佑菜、そして最終章は……。それぞれの人生の中に美味しい鰻がある。

一方、鰻について登場人物たちが語る言葉には共感がたくさんあるが、特に印象的なのはこの一言。
「(うなぎは)子供には必要ない。子供の心には、大人みたいな隙間がないからね。……大人は隙間だらけだ。……だから、ときどき必要なんだよ。心をいっぱいにしてくれるごちそうが」

本当に美味しいものは毎日食べたらありがたみがない。鰻はそういうものだというのは納得である。だからこそ、この本を読めたという喜びを表現するために、おいしい鰻を食べたいのである。

ちなみにこの作品は鰻へのリスペクトと共に、欲望という名の電車への思いにも溢れている。もしこのミュージカルや映画を見たことがないという方は、ぜひこの本を読むのに合わせて鑑賞されることをお勧めしたい。

いずれにしても、心地よい読後感と空腹感に満たされる一冊である。

個人的おすすめ度 3.5