あの本は読まれているか(ラーラ・プレスコット)

冷戦の時代、米国のCIAがソビエト連邦に立ち向かうために武器としたものに文学があった。ボリス・パステルナークの小説「ドクトル・ジバゴ」は、ロシア革命を批判しているとして言論統制化のソ連では出版されなかった。そこでCIAはこの作品を武器とすることを決める。

ドクトル・ジバゴを巡る作戦は、実際に行われていた作戦であり、物語の登場人物の多くが実在している。著者は、この作戦の機密情報が解除されて内容を知ったことをきかっけに、この作品を書くことを決意したという。しかも、著者のラーラという名前は、ドクトル・ジバゴのヒロインと同じ名前で、その名前の由来はまさにこの作品であるという。まさに書くべき人がこの物語を書いたと思わずにはいられない。

物語は、西側の世界、東側の世界が平行して進んでいく。そして、それぞれの場所で複数の人物の視点から語られていく。西側でCIAのスパイとなった女性を中心に、東側ではラーラのモデルとなったパステルナークの愛人を中心に、必死に生きる人々の姿が描かれている。

あの本を巡ってこんなドラマがあったのかと、ただただ驚くばかりである。そして、この本を読まなければ知ることも想像することもできなかった人々の生きる姿勢に心を打たれた。

個人的おすすめ度 4.5