あなたか消えた夜に(中村 文則)

不可解な連続通り魔殺人事件──それは愛なのか、それとも人の心に巣食う悪なのか。狂気と正気の境目はやがて曖昧になり、読んでいる自分自身が怖くなってくる。

神に語りかけ、やがて神に失望し、後戻りのできない世界へと進んでしまう人間の性。それが理解できないものかと問われると否であり、誰もが少なからず心の奥に秘めている破滅への憧れかもしれない。なぜそうした感情があるのか、言葉にすることは難しいが、著者はそこを淡々と描き切っているのが素晴らしく、そして恐ろしくもある。

今、ニュースで猟奇的殺人事件があったことを知れば、その犯人像を思い浮かべながらも、理解できないことだと嫌悪を示すことだろう。しかし、この作品に引きずり込まれると、その嫌悪は自分自身にも向けなくてはならないと感じてしまう。他人事ではなくなってしまうのである。

中盤から後半にかけて、文中には表現を強調する太字部が現れる。目をそむけたくなる部分だからこそ、決して目をそらすなと言われているようで、背筋に寒さを感じながら読み進めた。虚しさが残る結末──この結末に希望を感じてよいのだろうか。

個人的おすすめ度 4.0