あしたの君へ(柚月 裕子)

家庭裁判所調査官という仕事がどんな役割を果たしているのか、この作品を読んで少しだけ理解することが出来た。デジタル技術が進んでも、人の心を想像して寄り添えるのは生身の人間しかないと改めて思う。

主人公は研修期間中の調査官補であり、担当案件ごとに問題に直面し、葛藤しながら成長していく姿が描かれている。十七歳の少女が犯した窃盗の理由であったり、優等生の少年が抱える母への思いであったり、あるいはモラルハラスメントを訴える女性の実態であったり、さらには両親の親権争いの間で苦悩する子供の本心であったり……。家庭裁判所が下す判断は、そこに係わる多くの人の人生を左右する。調査官という仕事は、裁判官が正しい判断を下せるようにそれぞ支える重要な仕事である。

すべての人が理想的に生きることができるなら、裁判所は不要かもしれない。しかしそんな社会はすべての人間がロボットにならない限り不可能だろう。人間には心があるからである。

家裁調査官という立場から、人の心の問題をしっかりとらえた良作である。

個人的おすすめ度 4.0